0.真夜中に小声でうたう

ScenePlayer:なし / Place:A市、某所

GM深夜、暗闇に虫の小さななき声が響いている。
GMそこに黒々と立ちすくんでいる、一軒の空き屋。住むものはもはやなく、管理する誰かもいない。ただ遠地に住む所有者はその家に興味を示さないようで、古びたその家は沈黙の中に立ちんぼう。
GMその沈黙の中に、さくりと足音がひとつ。
GM暗がりの中、少年は星空を見上げるように家を眺めあげる。
《史上最悪の幸運》「――寝起きが悪いよねえ、守宮紫陽花。」
《史上最悪の幸運》だから顔ぐらでけーんだよビビるわ
《史上最悪の幸運》「もういないともしても、守ってるつもりなら。」
《史上最悪の幸運》「そろそろ起きてくれてもいいと思うんだけど。」
《史上最悪の幸運》「約束だろ。」
《史上最悪の幸運》「”また”って。」
《史上最悪の幸運》「――……それとも、」
GM彼はゆっくりと視線の先に手をのばす。
《史上最悪の幸運》「もう、僕に会いたくないのかな?」
《史上最悪の幸運》「それとも、僕はもういないと思ってる?」
《史上最悪の幸運》「――」
《史上最悪の幸運》「……僕は認めないよ。キミが起きてこないのが、僕の《はた迷惑な天運》のせいだなんてさ」
《史上最悪の幸運》「笑うだろうね、《黄泉孵り》は。僕が望めば望むほど、僕がキミに会いたいって思うほど、キミは決して起きやしないんだって。」
《史上最悪の幸運》「僕は認めない。」
《史上最悪の幸運》「絶対に認めない。」
《史上最悪の幸運》「そのために、――」
GM伸ばした手。その手を彼はゆっくりと握っていく。
GMめり。小さな音がした。それは彼の手の中ではなく、佇み黙り込む家から。
GMめきり。屋根瓦が砕ける。ぱきり。柱にひびが入る。
GMその音は僅かの逡巡の後に連鎖をはじめて、
GM――――
GMそれはほんの数秒のことだったと、星々は語る。
GMそこにはもう、何らの家も、庭も、草もなかった。
GM家を吸い込んだ手をゆっくりと下ろす。一度手の平を見て、握りしめた。開く。そこにはなんの痕跡も残っていない。
GMぺろりとひとつ、舌なめずり。
《史上最悪の幸運》「僕は”頑張ってる”んだからさ。」