18.《ハロー・ワールド》

ScenePlayer:なし / Place:A市・某所

GM──それは初夏も近い早朝のこと。
GM寺の外縁に座り、並んでアイスバーをかじる子供たちは、朝日を待つ。
GM傍らの虫かごの中では、小さなクワガタ虫が一匹おとなしくしている。
GMふわりと吹いた風に、少女の麦わら帽子が揺れた。
守宮あやめ「また、あの夢、見たんだ」
GM彼女はふと、そんな口火を切る。両脇の少年少女が彼女を見上げたから、彼女は苦笑とともに二人を交互に見下ろした。
守宮あやめ「お姉ちゃんが欲しいのかなあ、あたし。お姉ちゃん、いた気がするんだよね」
一式樹「おれは兄ちゃん欲しい!」
鶴賀谷朝菜「おかーさんにお願いしてみる?」
一式樹「した! けど無理って言われた!」
守宮あやめ「そうだよね……」
GMアイス棒をくわえて頬を膨らませる少年の頬を、少女はつんとつつく。
守宮あやめ「いるはずがないんだけど。……もう何度目かなあ、お姉ちゃんと一緒にいた夢」
鶴賀谷朝菜「あやめちゃんがお姉ちゃんみたいだけど」
守宮あやめ「えへへ、ありがと。……でもね、あたしよりずーーっと、優しいお姉ちゃんだったんだよ」
鶴賀谷朝菜「あやめちゃんがおっきくなったみたいな?」
一式樹「あやめは優しくない」
鶴賀谷朝菜「いつきがわがままなのー!」
一式樹「あすなのほうだろー!」
守宮あやめ「ふたりとも、けんかしないの」
GMふたりの少年少女の頭に、彼女はぽんと手を乗せる。
守宮あやめ「あたしより、ずっと優しいお姉ちゃんだったから、いつきくんにも優しいかなって思うよ」
一式樹「ふーん……びじん?」
鶴賀谷朝菜「いつきのエッチ」
一式樹「なんだよ!」
鶴賀谷朝菜「なんでも!」
守宮あやめ「こーらー。……んー、顔は、覚えてないんだけど」
一式樹「なぁんだ」
守宮あやめ「──えっとね」
GM夢の中身を思い出すように彼女は空を仰ぎ、
守宮あやめ「手を繋いだら、すっごく温かかったよ。それでね、」
GM──嬉しいことを一緒に喜んでくれる、はしゃぎ声。困ったみたいに笑う雰囲気。「あやめちゃん」、そう呼ぶ声。
GMそんなことを訥々と、彼女は語る。
守宮あやめ「……本当にいたら、いいんだけどなあ」
GM小さなため息とともに、そうつぶやく少女の頭越し、年下の二人は顔を見合わせる。
GM風がそよと吹く。しばしの沈黙が訪れる。
鶴賀谷朝菜「──……いるよっ」
守宮あやめ「……え?」
一式樹「うん、いる!」
守宮あやめ「えっ、えっ?」
鶴賀谷朝菜「いるよね!」
一式樹「おう!」
守宮あやめ「……ふ、二人とも……」
鶴賀谷朝菜「だって、あやめちゃんがいて欲しいって思うんだもん! 優しいお姉ちゃんなら、いなくてもいるよ!」
守宮あやめ「い、いないんだよ? 夢だよ?」
GM困惑したように眉をひそめる彼女に、少年少女はぶるぶるとかぶりを振る。
一式樹「見えないだけっ! いるって思えば、きっといるんだよ!」
守宮あやめ「……、……もう、二人とも……あたしの夢、ってだけなのに……」
鶴賀谷朝菜「あやめちゃんだけじゃないよ、あやめちゃんにお姉ちゃんがいるって思ってるの」
一式樹「あすなもー、おれも! あやめに姉ちゃんがいるって知ってるもんな」
GM自信満々の二人の背後、群青の空がゆっくりと白んでいく。
一式樹「だって、あやめがそう言うんだもん。なら、それでいいじゃん!」
鶴賀谷朝菜「あたしたち、あやめちゃんの妹分だもんねー。お姉ちゃんの言うことは信じるんだよっ」
守宮あやめ「……、……ありがと……」(そんなこと言われたら、)
GMこぶしを握る二人に、少女は小さく笑う。
GM──その時、ゆっくりと朝日が昇った。雲を照らし出すその光が、この世界を覆っていく。
GM子供たちの歓声。光を浴びて、ただただ、楽しそうに嬉しそうに。
GMその背後、風が穏やかにそよいでいって、
GM 
GM──……早咲き一輪、紫陽花が揺れていた。