10.冷たい雨に撃て、約束の銃弾を

ScenePlayer:なし / Place:裏山

GMその日は折しも雨が降っていた。
GM傘も差さず、少年はゆっくりとぬかるんだ地面を踏みしめて山を登る。
GM春先とは言え、まだ夜は冷える。
GMしっとりと濡れた髪の毛束から、ぽつりとしずくが滴る。
GMそうしてたどり着いた先は、古びた石碑と、広場に誰も入らぬようにと戒められた縄のあと。
GMその縄のあとに彼はそっと指先を滑らせる。
《史上最悪の幸運》「……あぁ、」
《史上最悪の幸運》「これは。誰のせいなのかな」
《史上最悪の幸運》「僕かな。……彼女の訳がないから。でも、……きっと偶然だね。誰の天運でもなくて。」
《史上最悪の幸運》「そんな偶然もあるんだね。……あるのにね。」
《史上最悪の幸運》「……」
《史上最悪の幸運》「ここから来たんだね。」
《史上最悪の幸運》「……どこに行くのかな。」
《史上最悪の幸運》「……《黄泉孵り》は、時々、本当に悪趣味だ」
GM彼のまわりに渦巻いているのは天運。もっとも彼が望まず、故に彼から離れることはない。
GMその天運に怯えたかのように息を潜め、けれどあたりに充満する気配は、自然のモノでも人間のモノでもない。
GMレネゲイドウィルス。あたりに充ち満ちるはその気配。
GM木に、石に、土に、それらはひっそりと息づいてひとつの場を形成している。
GMひとつちぎれればそれがひとつの意志を持つかのような、そんな場を形成している。
GMつまりそれは、5年前の事件もまたそのひとつであり、
GM1年前もまたその通りであり、
GM今もまた、誰かが望めばそうなるということで。
《史上最悪の幸運》「……《ハイドランジア》」
《史上最悪の幸運》「キミはなぜ、この場を消さなかったんだろう?」
《史上最悪の幸運》「理由はいくつかあるだろうね。単に知らなかった、ってことかな?」
《史上最悪の幸運》「それとも、……」
《史上最悪の幸運》「……”僕の願望”か。どうせ叶わないんだ」
《史上最悪の幸運》「──だから、考えないことにするよ。そんなことはね」
GMぽたりとしずくが滴る。
GM沈黙。
GM春の雨に音が吸い込まれていく、そんな静寂。
《史上最悪の幸運》「……」
《史上最悪の幸運》「怖いな。」
《史上最悪の幸運》「……誰を選ぶのかな。」
《史上最悪の幸運》「もしかしたら、……。……」
GM彼はゆっくりとかぶりを振った。
GMそれは叶わぬ望みを振り捨てるように、あるいは望みすら抱かぬように。
GM──もしか、彼の天運を振り払うかのように。