10.過去は嘯く
ScenePlayer:なし / Place:某所
GM:客の少ない喫茶店は密談にもってこいだ。
GM:とはいえ、その密談が常に和やかに進むなど誰も保証はしない。
GM:無愛想なウェイトレスのおいていったコーヒーカップを手に、男は小さく肩を竦めた。
《黄泉孵り》:「……誰も不幸にはなっていない。そうだろう?」
《史上最悪の幸運》:「それはそうでしょうよ。まるで麻薬みたいな話だ」
《史上最悪の幸運》:「でも、幸不幸は天秤じゃない。不幸の文鎮が霧散しても、別段幸福には傾かない」
《史上最悪の幸運》:「目下の気鬱が晴らされたとしても……」「……」
《史上最悪の幸運》:「……どうしたんですか」
《黄泉孵り》:「……いや、何でもない。続けたまえ」
《史上最悪の幸運》:「口押さえてどうしたんですか。つわりですか」
《黄泉孵り》:「追求するものではないよ」
《史上最悪の幸運》:「そのコーヒーに毒が? おかしいな、入れるなら即効性のほうがいいんですが」
《黄泉孵り》:「だまりたまえ。いや、……」
《史上最悪の幸運》:「気持ち悪いな、口もごもごさせて。サクランボの鶴でも結んでるんですか? いい年して恥ずかしい」
《史上最悪の幸運》:「蔓」
《黄泉孵り》:「いや……少々熱くてね。コーヒーは熱く甘いものがとはいえ、」
《史上最悪の幸運》:「なるほど。火傷。」
《黄泉孵り》:「べろってなった」
《史上最悪の幸運》:「そのまま舌も抜かれればいいのに」
《黄泉孵り》:「コーヒーは閻魔ではないよ」
《史上最悪の幸運》:「そのまま舌が裂かれればいいのに」
《黄泉孵り》:「それはもうコーヒーではないね」
《史上最悪の幸運》:「そのまま……」
《黄泉孵り》:「なんの話をしにきたんだ」
《史上最悪の幸運》:「そうでした」
《史上最悪の幸運》:「……」
《史上最悪の幸運》:「あぁ、そうだ。つまり僕は《命の別名》のセルリーダーとして抗議に来たわけです」
《史上最悪の幸運》:「彼女の世界を改変しないで頂きたい。……そんな幸せはそもそもまがい物ですよ」
《黄泉孵り》:「それを君が言うのかい? 壊そうとしている君が」
《史上最悪の幸運》:「少し違いますね。壊したいんじゃない。僕はこの世界を否定しているだけですよ」
《黄泉孵り》:「中二病か」
《史上最悪の幸運》:「高校二年です」
《黄泉孵り》:「高二病か」
《史上最悪の幸運》:「そもそもフェニックスとか言ってる人に中二だとか高二だとか言われたくないですねていうかセントラルドグマとかが全体的に」
《黄泉孵り》:「やめよう」
《史上最悪の幸運》:「はい」
《史上最悪の幸運》:「《純愛なる薔薇を育てし者》」
《黄泉孵り》:「いい名前だろうが!!!!!!!!!!!!!(激憤)」
《史上最悪の幸運》:「《純愛なる薔薇を育てし者を育てし庭》」
《黄泉孵り》:「妻のことを悪くいわないで頂きたい」
《史上最悪の幸運》:「中二じゃねえか」
《黄泉孵り》:「悪くないな」
《黄泉孵り》:「はあ」
《黄泉孵り》:「なんの話だったかね」
《史上最悪の幸運》:「そうでした」
《史上最悪の幸運》:「……元に戻すことは」
《黄泉孵り》:「もちろん可能だ。だが君は選ばないだろうな」
《黄泉孵り》:「まあ、」
《黄泉孵り》:「あの子がどうするかはまた別だがね」
《史上最悪の幸運》:「……」
《史上最悪の幸運》:「……まあ、術者を始末すればそれはそれで」
《黄泉孵り》:「残念だが、それは解除の条件ではない。」
《黄泉孵り》:「歴史と共に私は佇んでいる。」
《黄泉孵り》:「私の成したことは記録に残らずとも歴史に爪痕を残し──例え私が消えたとしても、それは何も変わらない」
《史上最悪の幸運》:「つまり、あんたはスイッチを押しただけと?」
《史上最悪の幸運》:「……ただ、これ以上繰り返させないことはできるだろうね」
《黄泉孵り》:「そうだろうね。だが、そのことにかかずらっている必要があるのかね?」
《黄泉孵り》:「君の目的はこの世界の破壊──失礼。否定だったか」
《黄泉孵り》:「君が否定すべき世界をどれだけ改変されようと、いずれ君は否定するのだろう」
《黄泉孵り》:「ならばいくら改変されようと、君には関係がないはずだが?」
《史上最悪の幸運》:「……」
《史上最悪の幸運》:「……そうですね」
《史上最悪の幸運》:「いずれ否定する。なら、確かにあなたの言うとおり、どれだけめちゃくちゃにされたって構わないわけだ」
《史上最悪の幸運》:「どうせ捨てるケーキなら、丁寧に運ぶ必要はないわけで」
《史上最悪の幸運》:「でも、それはそれだ」
《史上最悪の幸運》:「あなたが言うように、そしてあなた以外もまた、歴史に佇んでいる。残した爪痕はあるべき形で残るのがふさわしい」
《史上最悪の幸運》:「例え僕がそれを否定しようと、否定が成就するその瞬間まで、爪痕は残るべきだと」「そう思います」
《史上最悪の幸運》:「──……まあ、これは感情論ですけどね」
《黄泉孵り》:「つまらないセンチメンタリズムかね?」
《史上最悪の幸運》:「それはひとつの感情です」
《史上最悪の幸運》:「我々からその感情を切り捨ててなんになるんです?」
《史上最悪の幸運》:「欲望は須く感情から萌芽している、我々が感情を否定すればすなわち、」
《史上最悪の幸運》:「欲望の否定ですよ」
《黄泉孵り》:「……ふむ」
《黄泉孵り》:「では、そのセンチメンタリズムを元に、私に挑むと。そういう話かね」
《史上最悪の幸運》:「必要があれば。」
《史上最悪の幸運》:「……」
《史上最悪の幸運》:「まだ、あなたには期待をかけています」
《史上最悪の幸運》:「ここであなたと事を荒立てるのは得策ではないでしょうね」
《史上最悪の幸運》:「とはいえ」
《史上最悪の幸運》:「気にいらねーんだよ」
《黄泉孵り》:「なるほど」
《黄泉孵り》:「……まあ、安心すると良い」
《黄泉孵り》:「私の目的はそう複雑ではない。そう、君ほど面倒で訳の分からない欲望ではないからね」
《黄泉孵り》:「成就さえすれば、二度は繰り返さないよ」
《黄泉孵り》:「それこそストックも多いわけではなく──繰り返す必要もないし」
《黄泉孵り》:「我々の領域を定めておくならば」
《黄泉孵り》:「君たちが彼女に手を出すのならば、私は全力で君たちを相手にとろう」
《史上最悪の幸運》:「彼女は重要なピースなんですけどね」
《史上最悪の幸運》:「……」
《史上最悪の幸運》:「事後策は、……」
GM:言葉が途切れたのは注文したケーキを無愛想なウェイトレス
どどんとふ:「GM」がログインしました。
GM:途切れたのは注文したケーキを無愛想なウェイトレスが運んできたからだ断じてGMのPCが不調だからではなく
GM:実際不調だったんですけどもともとほらあのね
GM:ともかく途切れた会話の合間に、フォークが皿に触れる音がして、
《黄泉孵り》:「ん゛っっ」
《史上最悪の幸運》:「(噛んだな……)」