37.悪魔を憐れむ歌

ScenePlayer:なし / Place:ー

GMどこかの家。
《医学博士》「――そんなもんなのかねえ。オレにゃわかんねーけど」
《医学博士》「何にも変わんねーだろ? 現実的に考えてさ。」
《医学博士》「別にタイムマシンが出来るわけじゃねえし、結果的にシステムとやらが出来てるのは事実なんだろ?」
《医学博士》「意味があるとも思えねえんだけど。」
《医学博士》「ただ……でも、なあ。」
《医学博士》「気にくわねえってんなら、わかる。」
《医学博士》「痛いほどな。馬鹿馬鹿しいくらいに。ふざけんなって思うのは、わかる。」
《医学博士》「だからまあ――素直になれや、ダイヤモンドちゃんよ。建前だのなんだの、オレにゃ関係ねえし、興味もねえ。」
《医学博士》「ナマッからの、本気の、どうしようもねえくらいのハラワタ見せてみろや。それでオレは十分だよ」
GM彼と彼女は一言で言えば二重人格だ。彼女は現実を正視できず、それ故に第二の人格を生み出したと、そう医者は診断した。
GMその診断に何の意味もない。彼女を、彼を、その診断、結論、名前が救うなどはなかった。
GMただ、彼女も彼も、本来は一つだった。二つの人格を持った一つの人物だった。
《トリック》「むずかしいことは、わかんないよ」
《トリート》「もっとわかりやすいのがいい。誰を殴ればいいとか、そういうの。」
《トリック》「でも、あたしたち、《史上最悪の幸運》のこと、好きだよ。」
《トリート》「《トリック》の次に好き。だっておもしろいもん。」
《トリック》「あたしも、《トリート》の次に好き。遊んでくれるし。」
《トリート》「寂しくないもん。《トリック》と、《史上最悪の幸運》と、《黄泉孵り》と《神出鬼没》と、《医学博士》が、みんないるもん。」
《トリック》「《史上最悪の幸運》はおにいちゃんね。パパとママのことは知らない。でも、寂しくないよ。みんながいるもの。《トリート》がいるもの。」
《トリート》「だから、うーんと……」
《トリック》「それはきっとね、いいことなの。」
《トリート》「だって、僕ら今、すっごく楽しいもん。……学校以外は。」
《トリック》「だから、関係ないんだよ。」
《トリート》「事故も?」
《トリック》「事故も。」
《トリート》「学校も?」
《トリック》「学校は、ちょっといや。でも、行かないと《神出鬼没》が怒る。」
《トリート》「怒られるのは?」
《トリック》「好きじゃない。でも」
《トリート》「うん。だよね」
《トリック》「そうだよ」
《トリート》「すんごく楽しい。」
《トリック》「だから、《史上最悪の幸運》がやることは、いいことなんだよ。」
《トリート》「だから、」
GM少年と少女は双子だ。生まれたときからふたりだ。引き離されればひとりだ。けれど彼らは双子として育てられて、双子として認識していて、双子として愛し合っていて、まるで一心同体で、けれどふたりだったから、お互いの手を握りしめて離さなかった。
GMあるいはあの事故がなければ、あの覚醒がなければ、彼らはひとりだったかも知れない。ふたりでいることがあの事故から、あの覚醒から、ずっと決められてしまっていたのかも知れないし、そして彼らがお互いに依存し合っているのもあの事故、覚醒に由来しているのかも知れない。
GM彼らはふたりで、けれど一つになりたがっていた。そして、今はひとりだ。
《神出鬼没》「気持ちはわからんでもないよ。責任がないとも言わない」
《神出鬼没》「実際、《とどめの一撃》を止めきれんかったのは事実だし――なにより、僕自身否定したこともなかったしね。」
《神出鬼没》「あれはあって当然……というか、あるものだと信じてた。違うな。信じてたと言うより、そう言うものだと思ってた。だから、その点において、僕はお前のいう『あいつら』と同じなんだろうな」
《神出鬼没》「――言い訳するわけじゃねえけどさ。いや、言い訳か。僕の起点はわりとそこにあったんだよな」
《神出鬼没》「《とどめの一撃》のせいにするのは簡単だわな。責任を追及しても何の意味もないだろうけど。だからまあ、……いいよ。」
《神出鬼没》「面白いじゃん。――なに、気にすんなよ。起点っつっても、人間、案外に一つじゃないもんだよ。いくつもの要素が絡み合って、原点、起点ってもんが出来てる。」
《神出鬼没》「忘れんのは怖いよ。忘れたからね。なにもなかったことにするってことは、いやだ。少なくとも、僕がここに生きてんのは、あの日かばってくれただろう母親のおかげだし――あの実験、おやっさんの試行錯誤で何人も死んで、でもその果てに僕は生きてる。死んでった連中、袂を別った連中、みんなの人生の枝の先に僕はいる。」
《神出鬼没》「そいつらの時間を、少なくとも僕が関わった時間を、なかったことにするのはいやだ。だから、忘れんのはいやだ。おちおち死んでられねえとも思うわ。」
《神出鬼没》「――わかるか、コウちゃんよ。」「僕は、お前のその願望を、なかったことにするのもいやなんだよ。」
《神出鬼没》「聞いた。納得した。あいつらと同じだとせめてもいいのに、お前さんはそうしなかった。それってつまり、僕に手をかせってことだろ? 協力要請の場で弱みを握るのはお前さん、好きじゃねえし」
《神出鬼没》「――ただ、一つだけ約束しろ。」
《神出鬼没》「守宮紫陽花のためだなんて、嘘でも本気でも思うな。それはお前の欲望だよ。決して守宮紫陽花のためじゃない。わかってると思うがね。」
GM彼は自らをデュプリケータと揶揄したこともあったし、実際その身に得た《奇妙な隣人》は紛れもなく複製品だ。彼は死んで、そしてまた死んだ。二度の死を迎えた彼はそれぞれ別人であると言えたし、記憶の継承という意味ではひとりであるとも言えた。
GMそして彼はまた、二つのコードネームを持っていた。けれど戸籍にも載らぬ本名はただひとつだ。彼はふたりであると言えたし、同時にひとりであった。ふたりでいることを求めて、最期はひとりだった。
GM彼らの全てのふたつ、それは本質的にひとつで、ひとつになりたがり、ひとつとも言えた。
GMすべての2は1へと帰還する。
《史上最悪の幸運》「わかってる。」
《史上最悪の幸運》「――だから、僕は最後までやるよ。」
《史上最悪の幸運》「何もかもなくなったね。僕が求めたから? 違う。」
《史上最悪の幸運》「僕の力が足りなかったから。それでも願ったから。それでも、」
《史上最悪の幸運》「……ここまで来て翻意をしたくなるなんて、ありえないじゃない?」
《史上最悪の幸運》「あの日の――」
GM約束を。
GM願った約束を。